中国の都市では、東京と同じぐらいに膨大な鉄道網が張られていて、いまも現在進行形で路線の延長や、新しい路線の開発が進んでいます。
上海の地下鉄網
北京の地下鉄網
乗り降り自由なシェアサイクルや安価なタクシーと並んで、市民の足とも言える中国の地下鉄。
そこにいる中国人の姿をまじまじと見つめていると、日本ではちょっと考えられないような驚きの行動と、日本人が学ぶべき姿が見えてきます。
無法地帯の中国の地下鉄
並ばない
中国の地下鉄は、基本的に並びませんし、「降りる人が優先」のようなルール意識もありませんので、電車が駅に到着すると降りる人と乗る人が一気に交錯することになります。
私も「ちょっと、ぶつからないでよ!」と何回言われたことか。
仕方ありません。あの瞬間が中国の地下鉄という戦場での一番の戦いなのですから。
奥までつめない
中国の地下鉄と日本の地下鉄では、朝夕の通勤ラッシュ時の混み具合は、さほど変わらないように思いますが、中国人はなかなか車両の奥まで詰めてくれないので、ドア付近が常にぎゅうぎゅうに混んでいて、奥に入るとガラガラ、なんてことも。
これは市バスも同じで、奥まで詰めればあと30人ぐらいは乗れそうなのに、入り口が詰まっているせいで乗せてもらえないことが度々ありました。(その時は悔しいので安価で快適なタクシーに乗ります。)
うるさい
人の壁を越えて地下鉄に乗り込んでみると、今度は携帯電話の通話や乗客同士のおしゃべり(中国人は基本的に声がでかい)、さらによく見かけるのはイヤホンなしの動画視聴やゲームのプレイです。
私は初めのうちは色々な音が気になってしまって、頭痛がするほどでした。(3回乗ったら慣れました。)
汚い
車内で盛大に飲食したり(ひまわりの種をぼりぼり食べていたり)、小さな子どもが土足のままで椅子に立ち上がったりと、潔癖さんには耐え辛い光景が広がっています。
ドリアンや干し肉のように、匂いのきつい食べ物を持ち込む強者もいるので、頭がクラクラします。
チラシまき芸
私の住む上海では、地下鉄2号線が浦東空港と虹橋空港という東西に分かれる二つの空港を繋いでおり、途中駅ではビジネスや観光の拠点を通過するので、平日・休日問わず賑わっています。(地下鉄に対して「賑わう」という形容詞はなかなか使わないでしょう?)
この2号線は地方から出てきた観光客の利用も多いので、運が良ければ、上海市内観光のチラシを座っている乗客の膝の上にものすごい速さで(勝手に)乗せていく「チラシまき芸」に遭遇できるかもしれません。
このように、中国人のおおらかさ(大雑把ともいう)ばかりが目に付く中国の地下鉄ですが、私のように長期で中国に暮らしていると、すっかり現地に染まってしまって、うるささや汚さの感覚がだんだんと鈍感になり、しまいにはそれが心地よくなってきたりします。
この変化を中国語で「本地化(běn dì huà)」といいます。
さて、こんな風に、まるで「自分のことしか考えていない」ような中国人達ですが、電車の中では心温まる場面にもよく出くわします。
老人や子どもへの席譲りの文化
中国の地下鉄でニンゲン観察をしていると、ほぼ毎回「中国人の優しさ」に触れることができます。
それは、老人や子ども(しかも小学生ぐらいまで)への「席譲り」です。
以前、私の両親が60歳ぐらいの時に中国にいる私を訪ねてきた際、一緒に地下鉄に乗った時のこと。
私たちが地下鉄に乗り込むと、座席に座っていた中国人の学生数名が一斉に席を立ち上がり、両親に席を譲ってくれました。
両親も「こんなの初めて。日本ではありえない。」と驚き、そして大変喜んでいました。
私自身(30代)、日本の電車で高齢者に席を譲る時には、「白髪で腰が曲がっていて、電車の揺れで倒れてしまいそうな人」、つまり80歳以上ぐらいの人にしか積極的には声をかけることができていませんでしたので、躊躇なく席を譲る彼らの行動を見て反省したところでした。
中国人には儒教の教えが根強く、年長者を敬う精神がしっかりと身についているようです。
このような景色は、電車に乗るとかなり高い頻度で見かけることができますし、日本人が見習うべき姿であると言えます。
見つめ直される中国の乗車マナー
中国のネットでこんな記事がありました。
網易新聞:これこそ最高レベルの富のひけらかしだ(2021/5/16)
https://c.m.163.com/news/a/G9SPL5OA055259BO.html?spss=newsapp
タイトルの「富のひけらかし」とはまるで皮肉のようですが、実はこの記事は中国のSNSで話題になっているある親子のルール規範意識の高さ(=溢れ出す心の富)へのネット民の賞賛の声が紹介されたものです。
お父さんの後ろに並び電車を待つ五歳児
電車の椅子が汚れないようにしている
記事では、「ルール意識の大切さ」と「親が子どもにルールを”言葉と行動の両方で教える”方法」について書かれています。
中国では争いが絶えなかった歴史的な背景もあり、今でも「自分と家族を第一に」という行動が目立ちますが、意外にもこの記事では、公徳心(みんなが気持ちよく生活できるように行動すること)の重要性についても説いています。
私たち日本人がイメージしている中国人像とは、少しずつ変わってきているのかもしれません。